(2)経口デキサメタゾン等のステロイド製剤を減量できる、あるいは代替療法があ
遅発性嘔吐は,抗がん薬投与後24 時間以降に発現するもの,と定義されており,そのコントロールは,患者のQOL 維持,さらに精神的安定や治療に対する意欲の向上のためにも必要不可欠である。薬剤の催吐性リスクを適正に評価し,エビデンスに基づいた制吐薬の適切な使用を検討する必要がある。
際に褐色細胞腫クリーゼを発現したとの報告がある。本剤投与後に著明な血圧上昇、頭痛、動悸等が認
薬剤の催吐性リスク分類は単剤での評価が基本であるが,同一薬剤であっても投与量,投与法によって異なり,さらに近年ではいずれの悪性腫瘍においても多剤併用療法が主流となっているため,催吐性リスクが過小評価とならないよう細心の注意を払うべきである。この点に関して,アントラサイクリンとシクロホスファミドの併用療法について,それぞれ単剤(シクロホスファミド≦1,500 mg/m2)では中等度リスクに分類されるが,NCCN ガイドライン2017 では高度リスク群として明記され,MASCC/ESMO ガイドライン2016 およびASCO ガイドライン2017 においても嘔吐頻度が高いことが示されている〔→参照〕。さらに,抗がん薬を複数日にわたって施行するレジメンの場合,薬剤の投与順序に応じて急性嘔吐と遅発性嘔吐が重複する場合もあり,より綿密な治療計画が望まれる。その一例としてリンパ腫におけるESHAP 療法では,1 日目から4 日目は中等度リスクとして対処し,高用量シタラビンが投与される5 日目以降は高度リスクとして対処する。
ASCO ガイドライン2017 によれば,遅発性嘔吐は,程度としては軽度なものが多いが,急性嘔吐の対処が不十分なときに起こりやすいとされる。治療としては副腎皮質ステロイド(経口デキサメタゾン)が推奨されており,メトクロプラミドや5-HT3受容体拮抗薬とも併用される。しかし,デキサメタゾンに加え5-HT3受容体拮抗薬を併用しても制吐効果の増強は得られない。さらに,急性嘔吐を認めた場合にはこれら2 剤を併用しても効果は不十分であるとされているため,抗がん薬の催吐性リスクや患者の状態に応じていずれか一方の使用にとどめるべきと思われる。
全身投与ステロイド薬の投与方法を変更する場合(内服→注射,注射→内服)や、持参薬から当院
デキサメタゾン3.3~6.6 mg 静注(4~8 mg 経口)単剤投与か,状況に応じてプロクロルペラジンもしくはメトクロプラミドも使用する。さらにロラゼパムやH2受容体拮抗薬あるいはプロトンポンプ阻害薬の併用も検討される(→参照)。
なおホスアプレピタントの海外第III相ランダム化比較試験として,中等度リスクの制吐薬治療における5-HT3 受容体拮抗薬とデキサメタゾン併用に対するホスアプレピタントの上乗せ効果が報告されている。
適応とする経口投与剤及び注射剤、湿疹・皮膚炎群、乾癬等の治療を目的とした ..
ランダム化比較試験やプールドアナリシスの結果では,デキサメタゾン4~8 mg 経口投与(2~3 日目)とNK1受容体拮抗薬であるアプレピタント80 mg 経口投与(2~3 日目)の併用がデキサメタゾン単独より有用であった。この2 剤併用は,5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンの併用に比べても有意に遅発性嘔吐を抑制しており(21% vs.36%,p<0.001),ASCO ガイドライン2017,MASCC/ESMO ガイドライン2016 で推奨されている。
基本的に5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾン6.6~9.9 mg を静注(8~12 mg を経口)の2 剤併用とするが,一部の抗がん薬(カルボプラチン,イホスファミド,イリノテカン,メトトレキサート等)を投与する場合にはアプレピタント125 mg 経口投与もしくはホスアプレピタント150 mg 静脈内投与の併用が推奨され,その際にはデキサメタゾンを減量(静注: 3.3~4.95 mg,経口: 4~6 mg)する(→参照)。また,わが国では400 例を超えるオキサリプラチン投与患者に対する第III相ランダム化比較試験が行われ,5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾン併用下において,アプレピタント/ホスアプレピタント群がコントロール群より全治療期間,特に遅発期の悪心・嘔吐の制御に優れることが示された。
ヒト(女性、10 名)にデキサメタゾンを経口投与及び筋肉内投与し、薬物動態パラメ.
NCCN ガイドライン 2015 では,アプレピタントの代わりに多受容体作用抗精神病薬(MARTA)であるオランザピンをパロノセトロンとデキサメタゾンと3 剤併用で用いるオプションが示された。さらに同2017では,新たにアプレピタント(またはホスアプレピタント),パロノセトロン,デキサメタゾンの3剤併用にオランザピンを加えるレジメンも提示された。これらは,シスプラチンとAC療法を含む高度リスク抗がん薬投与に際し,オランザピンが,パロノセトロンとデキサメタゾン併用下においてアプレピタントと同等であることが示された第Ⅲ相ランダム化比較試験や,アプレピタント(またはホスアプレピタント),パロノセトロン,デキサメタゾンの3剤併用にオランザピンを加える有用性が示された第III相ランダム化比較試験の結果を受けている。ASCO ガイドライン2017 でもオランザピンを加えた4剤併用が推奨療法として追加された。オランザピンはわが国でも複数の臨床試験が行われた。オランザピンは公知申請により2017 年6 月から,他の制吐薬との併用において成人では5㎎ を1 日1 回経口投与(患者状態により最大1日10㎎ まで増量可能),最大6 日間を目安として先発品と一部の後発品で保険下にて使用が可能となった。本邦における推奨用量,使用方法については未だ検証段階であるため,適切な患者に慎重に投与することが望まれる。慎重投与すべき患者としては,糖尿病患者ならびに高血糖あるいは肥満等の糖尿病の危険因子を有する患者であり,使用に際しては副作用の傾眠や血糖上昇に十分注意する。高齢者への投与も慎重に行うべきである。作用点が重複するドパミンD2 受容体拮抗薬ドンペリドン,メトクロプラミド,ハロペリドール,リスペリドンなどとの併用は勧められず,また,睡眠薬との併用には注意を要する。投与量に関してはランダム化第Ⅱ 相試験ではあるが,高度リスク抗がん薬投与に対し3剤併用に加えたオランザピン5 ㎎ と10 ㎎では遅発期の悪心・嘔吐の制御において同等であったとの報告もある。
また,MASCC/ESMO ガイドライン2016 では5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾン (12 mg に減量→ 参照)とアプレピタントによる3 剤併用療法も,高度リスクの抗がん薬による急性嘔吐と同様に遅発性嘔吐に対しても推奨されている。
副腎皮質ステロイド(抗炎症薬)を経口または注射で投与することは
抗がん薬投与後,24 時間以内に出現する急性嘔吐は,抗がん薬の治療アドヒアランスを妨げる最も大きな要因の一つであり,その予防制吐効果の成否は遅発性嘔吐の治療効果にも影響を及ぼす。したがって,特に催吐性リスクが高度および中等度の抗がん薬投与に際しては,急性嘔吐を未然に防ぎ,さらに遅発性嘔吐の治療反応性を良好に保つためにも,積極的な制吐薬の投与を行う必要がある。以下に急性嘔吐の予防を目的として,抗がん薬投与前に行うべき対処を催吐性リスク別に概説する。
(6) デキサメタゾン(注射剤)を含む副腎皮質ステロイドにおいて褐色細胞
また,高度・中等度リスクの経口抗がん薬に対して,MASCC/ESMO ガイドライン2016 では,5-HT3受容体拮抗薬,副腎皮質ステロイドの2 剤併用が推奨されている。NCCN ガイドライン2017 では,5-HT3受容体拮抗薬の経口連日投与が推奨されているが,シクロホスファミド,エトポシド,テモゾロミドでは,日常臨床において治療目的や放射線治療併用のために副腎皮質ステロイドが併用されていることが多い。
ラットにデキサメタゾン 125mg/kg を 185 日間経口投与した結果、感染、
軽度リスクの経口抗がん薬に対して,MASCC/ESMO ガイドライン2016 では,制吐薬3 種類(5-HT3受容体拮抗薬,デキサメタゾン,ドパミン受容体拮抗薬)を単剤で使用することが勧められているが,最小度リスクに対する制吐薬の予防的使用は推奨されていない。一方,NCCN ガイドライン2017 では,軽度・最小度リスクの経口抗がん薬を含めて,悪心・嘔吐が生じた際にメトクロプラミド,プロクロルペラジン,5-HT3受容体拮抗薬などの連日投与(必要に応じてオランザピンやロラゼパムを併用)が推奨されている。しかし,経口抗がん薬に対する制吐薬の比較試験がないため,これらの推奨される制吐療法の信頼度は低い。ただし,これらの経口抗がん薬の有効性のエビデンスを示した比較試験のプロトコールをみると,Grade 2 の悪心・嘔吐が発現した場合にはおおむね支持療法を行うかまたは休薬し,支持療法によってコントロールできない場合には,投与量を一段階減量する,さらにGrade 3 の悪心・嘔吐が発現した場合は,投与量を一段階減量することが一般的である。したがって,がん薬物療法のエビデンスを示した臨床試験のプロトコールを参考に,日常臨床で使用されている薬剤を使用するほか,食事の工夫,カウンセリングなどの支持療法を実施し,コントロール不良の際は休薬し,抗がん薬を一段階減量して再開するという原則を守り,Grade 3 以上の悪心・嘔吐を発現させず,Grade 2の悪心・嘔吐が継続しないように内服を継続することが求められる。
デキサート注射液 (1.65mg-0.5mL) [デカドロン]
第1 世代の各5-HT3受容体拮抗薬の制吐効果に差はないとされているが,わが国で行われた高度リスクの抗がん薬投与に対する,第2 世代の5-HT3受容体拮抗薬パロノセトロンとデキサメタゾンの併用群とグラニセトロンとデキサメタゾンの併用群の制吐効果を検討した第III相ランダム化比較試験において,パロノセトロンとデキサメタゾンの併用群が有意に遅発性嘔吐を抑制したことが示されている(参照)。また,高度リスクの抗がん薬投与に対するパロノセトロン,デキサメタゾン,アプレピタント併用群と,グラニセトロン,デキサメタゾン,アプレピタント併用群の制吐効果の比較を行った第III相ランダム化比較試験(TRIPLE 試験)が報告され,主要評価項目ではないがパロノセトロン群が遅発期において有意に悪心・嘔吐を抑制したことが示された。
より症状が重くなると、④ステロイドの経口剤や注射剤が上記の治療に
以前よりわが国では,経口抗がん薬のうちフッ化ピリミジン薬の使用頻度が高く,大腸がんにおけるUFT/ロイコボリン,カペシタビン,胃がんにおけるS-1,肺がんにおけるUFT は比較試験により術後補助薬物療法の有効性が示されている。また,切除不能再発胃がんや大腸がんに対しても,S-1 やカペシタビン,UFT/ロイコボリン,大腸がんにおけるTAS102(トリフルリジン・チピラシル塩酸塩)は,ガイドラインで推奨されている治療の一つである。これらの経口抗がん薬は単回での催吐性リスクは少ないが,連日内服による消化器症状がある。
る忍容性がない若しくは有害事象を発現した患者にはデキサメタゾンを20mg/週で投与することも可能。その場合、ダラキューロ
現在, 抗がん薬の副作用である悪心・嘔吐の評価方法としては, CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Event) v4.0-JCOG が用いられているが,これは制吐療法の評価方法ではない(→)。従来のわが国の制吐療法における臨床試験では,悪心・嘔吐が「ない」,「我慢できる」から,「ほとんど食べられない」といったチェック項目を患者に提示して個々の治療効果を示してもらうなどの方法がとられていた。最近の臨床試験では,がん薬物療法施行後0~120 時間の完全制御割合,0~24 時間の完全制御割合(急性),24~120 時間の完全制御割合(遅発性)などが評価項目として用いられている()。しかし,医療者は過小評価の傾向が指摘されており,悪心・嘔吐の予測がどの程度できているかの評価も重要である。また, 患者自身による主観評価にあたる Patient-Reported Outcome (PRO) の重要性も認識されてきており, がん臨床試験における患者の自己評価に基づき, 有害事象評価の正確性と高い精度のグレーディングを追及したツールとしてPRO-CTCAEが公開されてきており(), 日常診療として客観的評価とどのようにして関連づけて評価していくか等に関する検討が必要になるであろう。
Seutter(1975)は、ヒトにおける副腎皮質ステロイドの代謝経路について再考察した。6-ヒドロキシデキサメタゾ
アントラサイクリン+シクロホスファミド併用(AC)療法においてアプレピタントを使用しない臨床試験のエビデンスから,2 日目以降のデキサメタゾンの上乗せ効果は証明されていない。さらにステロイドの副作用を減ずる目的で,AC 療法に対する2~3 日目のステロイド使用を行わないsteroid sparing という投与法は,ステロイド通常使用に対する非劣性が海外の第III相ランダム化比較試験で示されている。本邦でも,アプレピタント(またはホスアプレピタント)を併用した第III相試験において,AC療法を含む高度リスク抗がん薬に対するsteroid sparing が可能であることが示された14)。ただし使用された5-HT3受容体拮抗薬はパロノセトロンのみであることに留意する必要はある。したがって,AC 療法においては,steroid sparing は選択肢の一つとなる(→ 参照)。
リン酸デキサメタゾンとして,通常成人1回0.8~5mgを関節腔内 ..
経口抗がん薬における催吐性リスクについては,MASCC/ESMO ガイドライン2016 を参考に作成委員会内でコンセンサスを確認し, それ以外の薬剤については承認申請時のデータ,代表的な臨床試験の報告をもって に示すリスク分類とした。わが国で使用頻度の高いテガフール・ギメラシル・オテラシル(S-1)では,悪心の発現頻度は3~54%,Grade 3/4 は0.2~7.1%,嘔吐の発現頻度は14~28%,Grade 3/4 は1.2~4.3%と報告されており,軽度リスクに分類した。トリフルリジン・チピラシル(TAS-102)は悪心と嘔吐の発現頻度がそれぞれ48%,28%であることから中等度リスクに,アレクチニブは悪心の発現頻度が13%であり軽度リスクに分類した(→)。レンバチニブでは悪心の発現頻度が41%, Grade 3 が2.3%であり, 中等度リスクに分類した。
経 静 脈 デキサート注射液®6.6mg 1 筒 1 日 1 回
5-HT3受容体拮抗薬は,第1 世代,第2 世代と多くの種類があるが, 最大限の制吐効果を得るために最新の高価な薬剤を使っても有効性の優劣が明確でない場合もある。抗がん薬の催吐性リスクだけでなく, どの化学療法レジメンで, どのような制吐レジメンを用いるかで, 第一世代と第二世代の使い分けが示されており(→), 有効性が同等であればより安価な方を選択し適切に制吐療法を行っていくことが推奨される。
注)アプレピタントを使用しない場合は、1日目のデキサメタゾン注射薬
CHOP 療法も高度催吐性リスクに分類されている。しかし実臨床では制吐薬として2 剤併用が行われる傾向にある。これは高用量のプレドニゾロンを5 日間投与するため遅発性の悪心嘔吐が低いと考えられているためであり,実際に我が国で行われたCINV 観察研究では,79%で2 剤併用が行われていた。CHOP 療法に対するNK1 受容体拮抗薬の有効性については,1 コース目は2 剤併用を行い,2 コース目からNK1 受容体拮抗薬を上乗せする試験が報告されている。また第2 世代の5-HT3受容体拮抗薬の有効性について検討したいくつかの前向き試験が本邦より報告されている 。2 剤併用,3 剤併用のどちらが良いかについてのランダム化比較試験は,第II相試験での報告しかなく,今後の検討が必要である。